イギリスでも、黙っていられません

海外駐在妻の、世界へ向けたひとりごと

無料語学学校で英語力が伸びた話5 駐在妻は、なぜ英語を学ぶのか 下

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その日の語学学校では、ディスカッションを学んだ。

私たち生徒に、先生は12のトピックを配った。

この中から5つのトピックを選び、ペアの人と議論しなさい、と先生が言った。

私のペア、ヨンホンは、韓国人の50代の男性だった。英語がよくできる、海外生活の長い人だった。

多少の韓国訛りをもつものの、文法をしっかりと学んだ論理的な語り口は安定していて、先生も生徒たちも一目置いている。

私は、彼にどうしても聞きたいトピックがあった。それは、こんな内容だった。

「とある国を、ほかの国がdominate するのは、悪いことか」

韓国を占領した国、日本の私がこの質問をしたら、ヨンホンは気分を悪くするだろうか。

でも、聞いてみたい。そして、こう切り出した。

「あなたとこの議論をすることにためらいがあります。日本と韓国には歴史的な過程があるから。でも、あなたに聞いてみたい。Dominateについてどう思いますか。」

 

私の友達の韓国人ジェファンは、この話題になるといつも頑固だった。

日本の文化を称賛し、時には私よりも日本文化に精通している30代のジェファン。

紳士的で、とても柔軟な考え方のできる国際的な人だった。

でも、歴史の話になると、かたくなに「日本の教える歴史観は、間違っているよ」というのだ。

私が、「間違ってはいないよ。日本人は学校で、日本が韓国を占領したことを少し学ぶの。でも確かに、日本が韓国人をどんなふうにdominateしたか、具体的なことはほとんど触れない傾向にあるね」と話すと、険しい顔をした。

 

私は自分の国を弁護したくて、こういった。

「もちろん、反省していないわけではないんだよ。広島や沖縄の戦争に関する博物館に行くと、日本がしたことを反省し、外国籍の人にまつわる展示がたくさんある。」でも、ジェファンは信じてくれなかった。

あんなに穏やかで、柔軟な考えのできる子なのに。

日本が大好きで、日本中を旅行しているのに。

日本の歴史観については、私の言うことに少しも耳を貸さなかった。

彼と電話したときに、「今ね、韓国の歴史についての本を読んでいるんだよ。」と話した。

すると彼は「そんなの意味がないよ。だってその本は日本のものだろう?日本の歴史観は間違っているんだもの」といった。

「これは韓国人が書いた本を翻訳したものなんだよ?」と話しても、「どうだか」と言って始終不機嫌だった。

 

50代のヨンホンは、どんな歴史観を持っているのだろう?

 

 

ヨンホンは、まず私に尋ねた。

「君はどう思う?」

私は、恐る恐る自分の意見を言った。

「dominate はしてはならないと思う。でも、すべてが平等になることは不可能だから、どこかの国がリーダーシップをとらないといけないことも確かです」

こんなニュアンスで伝えたつもりだ。

Dominateとリーダーシップは別の論点なのに、こんな言い方をしてしまった。

だから、dominateを一部肯定するかのように伝わってしまったかもしれない。私の乏しい語彙では限界がある。私の言葉は、彼にどのように伝わったのだろう。

彼の意見を聞く前に、タイムアップとなった。

やがて、発表の時間になった。

先生はヨンホンと私を指名し、みんなの前でペアワークのデモンストレーションするように言った。

私は先ほどのdominateに関する主張を、もう一度繰り返した。ここにいる11人の生徒たちは、私の意見をどんなふうに感じただろう?

パキスタン、モンゴル、中国、スペイン、イタリア、ポーランド…彼らは、自分の国の歴史とこの課題を、どんなふうに照らしあわせたのだろう?

ヨンホンは、こう答えた。

「彼女の意見に賛成です。付け加えるとしたら…僕たちはdominate する権利も、dominateされる権利も持っていない。リーダーシップをとることと、dominateすることは明らかに違う。これが1番大切なことです」

ヨンホンの語学力なら、日本と韓国の歴史のことにまで触れて、もっと深い話に踏み込めたはずだ。どんなにdominateが悪いことなのか。でも、彼はその話をしなかった。過去のことではなく、この議論で言及すべきことを端的に述べた。

彼は歴史観ではなく、今後の未来のことばかり話していた。

 

そこで気づいた。私とジェファンの意見がかみ合わなかった理由。

 

私たちは、いつも過去のことばかり話していたのだ。

私たちは、もっと未来のことを、これからどうしたらいいのか話すべきだった。

  

先生は別の生徒を当て始めた。

私はしばらく、ヨンホンの言葉をかみしめていた。

じっと机を見つめ、ひっそりため息をつきながら反芻していると、横からヨンホンにひじでつつかれた。

「おい、お前いつも口数少ないくせに、みんなの前でちゃんと意見いえたじゃん!」。

にやりと笑うヨンホン。

 

どうやら私は、自分が思っていた以上に不安げな顔をしていたらしい。

「どんな言葉を選んだら、もっとうまく気持ちが伝えられただろう?」

「ヨンホンの言葉の裏にはなにが隠れているのだろう?」

そんなぐちゃぐちゃした気持ちが顔に出ていたのだ。

50歳のヨンホンが学生のように無邪気に笑いかけてくれて、少し心が軽くなった。

 

 

今回の件で、やっぱり自分の語学力の低さ、考えの浅さを痛感する。もどかしい。

でも、今の私にできることは、語れることは、ここまで。

私が英語頭で考えて、アウトプットできる言葉は、残念ながらここまで。

でも、ヨンホンはきっと、その奥にある葛藤もすべて、理解しようと試みてくれた。

 

漫然と勉強していると、ときどき思う。

英語が上達していいことがあるのだろうか。

多少の意思疎通ができれば十分ではないか?

 

もちろん、もっと細かいニュアンスが伝えることができたら、それはとっても素敵なこと。

かゆいところに手が届くように、英語を使いこなすことができたら。

もっと深い話をして、相手との理解が深まることができたら。

でも、多くの人間は、生きるのに精いっぱいで、その域にまで語学力を上げることができない。

私も、自分の能力と性格からして、限界を感じている。

 

じゃあ、どうやって英語を使いたいの?

 

私は、ヨンホンのように英語を話したい。

うまく伝えられないもどかしさを抱えた誰かの意思をくみ取って、思いやりのある言葉を、自分の意見として紡いで、相手と意思疎通をはかりたい。

これって、人として、最高にかっこいいことなんじゃないかな。

 

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