イギリスのホームレスと、社会の受け入れ方
イギリスの人たちは、町に住むホームレスと積極的に仲良くなり、定期的にコーヒーやたばこ、そして食べ物を差し入れて世間話をしている。
これは、私の住む町に限らずどの地域にもいえることだった。
ロンドンでもマンチェスターでも。
ホームレスの雰囲気は違うものの、みんなコミュニティになじんでいる様子だった。
マンチェスターのホームレス
マンチェスターのホームレスは、お酒やチップスの差し入れをもらうことが多い。
産業の町なので、中心街にはパブや軽食の店が多いせいだろうか。
酔っ払ったホームレスは、通りすがりの私たちに差別用語や卑猥な言葉を吐きかけた。
でも、当然のようにTESCO(イギリスのスーパー)に入ってきて、
店員に「おーい、紙コップくれない?」と気さくに話しかける。
お客さんがいようがいまいが、店員と長い長い世間話をする。
もちろんすべてが平和におさまるとは限らない。
ときには酔っぱらいに襲われて泣いているホームレスも見かけた。
枕元のピザやチップスの食べかすを汚いままにして、警察に退去を命じられているホームレスもいた。
環境は穏やかではないが、ルールを守るホームレスは、しっかりとその土地に根付いていた。
ロンドン、ケンブリッジのホームレス
ロンドンやケンブリッジのホームレスは、情に訴える看板をつくるのが得意だった。
自分は家族と生き別れ、●●で働き失業し、今生きる希望を失っている。少しでも、おつりでもいいから恵んでほしい!ということをつらつらと段ボールに書いて物乞いをする人もいれば、熱心に聖書を読む姿勢を見せつけたり、愛犬と並んで寒そうにたたずむ姿をアピールする人もいた。
犬のためにドッグフードを差し入れる人が多いのか、犬はつやつやコロコロと肥えて、豊かな家の番犬みたいで驚いた。
若くて顔の整った女性のホームレスも多かった。
家出してきたのか、ディズニーの毛布や真っ白な羽毛布団、スーツケースを持ち歩く人もいた。
のちに新聞を読んで知ったのだが、LGBTであることを家族に理解されず、家を飛び出してロンドンでホームレスになる若者も多いのだという。
老いも若きも、ホームレスは平気でカフェに入って「ちょっと小銭恵んでくれない?飲み物買いたいんだよ」と言ってくるし、芝生でピクニックをしているカップルに近づいて「外国通貨でもいいから恵んでくれ」と懇願している。
声をかけられた人たちも、さほど驚かない。そこから世間話が始まり、話し込んでいるケースもある。
ホームレス=不幸、衛生状態が悪い、社会的地位の低い人、といったステレオタイプがくつがえされる。
ホームレスのお兄さんと話をした
11月のことだった。
ケンブリッジ大学の学生の家で持ち寄りパーティーに参加した私は、
帰り道のホームレスと目が合った。
とてもきれいな目で、余裕のある笑みをたたえていた。
そして、私の腕の中には、先ほどのパーティーの残り物があった。
彼に挨拶をして、食べますかと尋ねた。
彼はすでに夕食を済ませているので、甘いものを持っているなら分けてほしいといった。
私はラズベリーのゼリーを渡した。
彼は私に、「君は日本人だろう?」と聞いてきた。
「日本の新幹線の技術は、すごいよね。」とも言った。
この前までエンジニアをやっていたんだ、と楽しそうに専門分野の話を始め、日本の新幹線の原理にまで話を広げた彼の目は生き生きとしていた。
経済的に恵まれてイギリスにやってきた私よりも、豊かな心を持っていた。
うらやましくなった。
日本のホームレス、イギリスのホームレス
日本では、ホームレスの多い治安の悪い地域で、こんな貼り紙をよく見かける。
「においのきついお客様は出入りをお控えください」
「壁におしっこをしないでください」
「注射器などをトイレに捨てないでください」。
一見「公共施設をきれいに使いましょう」と言っているように見せかけ、「社会から外れた人」と一線を画したいことが伝わってくる。
丁寧な言い回しであるほど「関わりたくない」という強い意志が感じられる。
それは、「この駐車場で起きたトラブルについて、当社は一切の責任をおいません」という駐車場の看板と似ている。
ホームレスの方の持ち物は、2000年代とは思えないほどにすすけてボロボロで、思わず目を背けてしまう。
かたやイギリスのホームレスの周りには、いつも誰かが分け与えたご飯やコーヒーが置いてある。
誰がホームレスを作ったのか。
横浜の寿町、大阪の西成、東京の山谷。
ここは隔絶された世界となっているけれど、これでいいのだろうか。
2019年11月編集