イギリスでも、黙っていられません

海外駐在妻の、世界へ向けたひとりごと

イギリスの教育について考える ーブックレビューとともにー

私には子どもがいないので、「イギリスの子育て」「イギリスの教育」というものに

じかに触れる機会はありませんでした。

ましてやイギリスで子どもを育てるという選択肢もなく、「イギリスの教育」カテゴリーは長らくノーマークでした。

 

しかし、先日恩師より紹介いただいたこの本。

 

 

国際教育うんぬんという話ではありませんでした。

一人の子どもの成長に大切なエッセンスがぎゅっとつまっていたことに驚きました。

母親である前に、一人の人間として尊重されるべきだということに気づかされ、はっとしました。

 

著者の浅見実花さんは、双子のお子さんをイギリスで育て、
第三子をイギリスで産んでいます。

ご自身で体験されたことだけでなく、

参考文献や現地の教育現場にぐいぐいと潜入して情報を集め、

イギリスの価値観を丁寧に丁寧に分析されています。

 

忙しい子育てと第三子出産のさなかに

英語の文献をたくさん読み、英国コミュニティに積極的に参画されてきたなんて、

本当にすごいことです。

 

英国保健省の作成した「妊娠の手引き」を熟読し、

イギリスの小学校の先生にインタビュー、小学校のボランティアに参画したり

保護者会や育児本の著者の講演会でご自身が見聞きしたことを詳しく紹介しながら

ご自身の見解を述べているので、とても説得力があります。
彼女の本を読んでいると、まるで現地で英国人と会話をしているような気持ちになります。

 

また、イギリスの寛容さや多様性は、イギリスに移民が多いから…とか、

そんな単純なものではないことを実感します。

 

多民族国家であるイギリスは、様々な国家の価値観を認めながら発展を遂げてきたわけですが、

その実践が、妊婦や子どもの人権への配慮にも展開し、

イギリスの法律や教育システムを形成しているのだ…と

読後に改めて思いました。

 

浅見さんの本で、印象的だったトピックをいくつかここで紹介します。

 

 

「母親」の前に、一人の女性として尊重される

 

私は専業主婦の母によって育てられました。

自分自身もバリバリと働くタイプではないので

子どもができたら子育てに専念するつもりでいました。

とくに日本の年配の方は、それを当然と思う場合が多いですよね。

 

親が赤ちゃんの面倒を24時間見るのは当然、という先入観は日本ではなかなか消えません。

託児施設とかベビーシッターを使うことへのうしろめたさはまだまだ根強い。

ご飯も、お弁当や離乳食はご家庭で作るのが当然の風潮。

 

でも、イギリスはそんな先入観がみじんもなく、

早々に職場復帰するお母さんが圧倒的に多いそうです。

育児疲れでお母さんが倒れてしまう前に、お母さんが社会で生き生きと活躍できる機会を作ることが大事だという考えが根付いているようです。

また、出産のあとにセックスが苦痛にならないよう医療従事者からのフォローが入ったり、

妊娠の手引きで産後うつの予防のことが触れられていたり。

「妊娠した女性」イコール「これから母親になる人」という位置づけだけではなく、

一人の女性として尊重しサポートを受けるべきだというイギリスの考え方が

「妊娠の手引き」という、保健省発行の冊子に明記されているようです。

 

また、助産師さんから以下のような提案がなされるのも、イギリスならでは。

お母さんが疲れたなら、授乳の時間を削減して睡眠時間をたくさん取るべきだ。

授乳の負担を軽くするために、母乳を紙コップで与えてみては?

 

離乳食は、手作り=愛情、ではない。野菜をゆでてマッシュすればいい。

子どもが学校に持っていくランチボックスは、具材が1種類のチーズサンドイッチ、果物、甘いもの、の

3点セットで十分という考え方。

 

日本人からすると、「へ!?」と思ってしまうようなテキトーさや

危機管理・栄養バランスの危うさもありますが、

母親の精神的身体的負担を軽減するためにそんな選択肢があるのだと知っておくと、

お母さんたちのプレッシャーが多少軽減されるのではないかと思います。

 

イギリスの教育は教師本位ではなく、システムとして成り立つ

 

日本の教育はというと、検定を受けた教科書が存在し、先生は学習指導要領に沿って

授業を作っていくわけですが、多くの場合授業づくりは先生に任され、忙しい先生たちは

教科書ガイドや自作教材をもとに毎年同じ授業を繰り返している印象があります。

 

 一方イギリスの小学校は、授業の科目の相互関連性が非常に強い印象があります。

6週間で1つのトピックを扱い、それに関連した授業が各科目ごとに展開されるとのこと。

各教科が絡み合って展開されることにより、子どもたちが自然と興味関心の広げ方を

学びやすくなりそう。

また、先生たちも半月に一回、「今この子たちはこんな課題を抱えているから、こんな授業をしたら有意義な時間になるな」などと、自然と授業の改良をはかる機会が与えられます。

とっても面白いシステムだなと思いました。

 

また、イギリスの小学校の通知表には、先生からのコメントがびっしりと書かれているのだそうです。

日本のように、数字や◎〇△で評価がつけられる通信簿とは大きく違います。

コメント欄には、先生から親へ「あなたのお子さんは今こんな課題を抱えているので、本を読むときはこんな点に気を付けてみてあげてください」などといったコメントが書かれているようです。

家庭と先生の連携をとることができるとともに、先生が子どもに向ける視線が温かいなーと感じました。

 

これも、先生の力量だけでなくイギリスの教育システムによるようです。

イギリスの教員は、生徒一人ひとりの理解度を観察するトレーニングや意識づけがなされているのでしょう。

 

多様性理解を重んじるイギリスの教育

古いアンケート結果によると、「自分と異なる考えの人とうまくやっていける」という質問に対し、「いつでもできる」と回答したイギリス人は84パーセントだそう。

日本はこのとき、27パーセント。

 

英国政府によると、「法律に従うこと」「異なる信念や信条を許容すること」「あらゆる人が不公平な差別から自由であること」は、イギリスの基礎原理なのだそうです。

子どもたちは公共放送をはじめとしたメディア、学校生活を通じて、お互いの違いに対して公平であること、そしてそれぞれ違う人々の中で暮らす社会でうまくやっていくことを、知らず知らずのうちに学び、身に着けているのである。

 

 

 まだまだ課題は多いけれど

 

 異なる国の異なる視点は私たちに非常に衝撃を与えるわけで、

隣の芝生は青く見えるけれど、やはりイギリスもたくさんの課題が残ります。

 

国際学力到達テストでは、イギリスの成績は芳しくないし、残虐な少年犯罪や

ナイフの事件、家出などたくさんの問題も山積しています。

 

問題点や、今も残る階級差については、ブレイディみかこさんの本で詳しく取り上げられています。

 

こちら最新作。これについてもいつかブログで書きたい。

 

ワイルドサイドをほっつき歩け --ハマータウンのおっさんたち

ワイルドサイドをほっつき歩け --ハマータウンのおっさんたち

 

 

それでも、イギリスのような多様な価値観の集まる環境で、日本とは違ったアプローチの教育が展開され、

そこから他者理解や創造性がどんどんと生み出されているのは確かなこと。

 

イギリスにまた行くことは難しいけれど

子どもとともに、いろんな価値観の世界に潜り込ませてもらって

いろんなことを学んでいける未来にしたい…

 

浅見さんの本を読んで、そんなふうに思いました。