イギリスでも、黙っていられません

海外駐在妻の、世界へ向けたひとりごと

イギリスロックダウン58日目 イギリスのパイのことーコーニッシュパスティ作りー

ロックダウンが始まるまで、私にとってイギリスのパイは「ランチを安く済ませる方法」のイメージだった。

物価の高いイギリスでパイを購入するのは、具沢山な惣菜パンを200円で購入できてしまう感覚。

駅の構内とか、GREGGSというファストフード店に行くと、どっしりとしたチキンパイやビーフパイがホットスナックコーナーに鎮座している。

 

肉料理を毎日夫に作るのにうんざりしたときは、お肉屋さんや市場でパイを購入し、温めて夫の夕食として提供した。

パイは買うもの。自分で作るものではなかった。

 

 

しかしロックダウンが始まり、惣菜を買いに行けなくなった今。

オーブン料理の便利さと簡単さに味をしめ、小麦粉でいろいろと作るようになった。

見た目も味もろくな料理ではないのに、パンも焼き菓子も肉料理も、焼き立ては本当においしい。

頑張ったのは私ではなくオーブンなのに、私は偉そうに夫に

「オーブン料理のリクエストちょうだい」と言ってしまった。

すると夫がリクエストしたのは、「コーニッシュパスティ」。

 

驚いた。

 

夫は渡英当初、「やはり食事は和食がいい、毎食米を食べたい。味噌汁も。」と言っていたのに。

最近はすっかり洋食になじんでいる。

 

主食はジャガイモ、大きな肉のかたまりがメイン料理のランチに慣れ親しみ、好みも変わったのだろうか。

 

 

コーニッシュパスティとは

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イギリス南西部の鉱業がさかんなコーンウォール地域の伝統的なパイ。

牛肉やスウェードという西洋カブ、ニンジン、ジャガイモを塩こしょうで味付けし、ショートクラストペイストリーの生地で包んだ餃子のような形のパイ。

調べてみると、小人の言い伝えや各家庭・地域のこだわりがあって面白い。

 

この料理が誕生した背景には、炭鉱の労働者がいる。

彼らはコーニッシュパスティをランチとして職場に持っていくのだが、アツアツ焼き立てをホッカイロの代わりとして携帯し、お昼に食べるころにはちょうどいい温かさになっているのだという。

 

私もコッツウォルズのパン屋さんで購入したことがあるが、フィリングの多さにびっくりした。

どうやってあんなにたくさん詰め込むのだろう?ってくらいに牛肉やジャガイモが入っていて、なかなか冷めない。フーフーしながら食べた。

寒い季節に川辺で食べたので、美しい景色や手の中のぬくもりとともに非常に印象的なランチとして記憶に残っている。

 

 

イギリスのパイ生地 ショートクラストペイストリー

 

イギリスのパイは、サクサクとしたショートクラストペイストリーという生地が定番という。

ショートクラストペイストリーは万能。

タルトやアップルパイ、ミンスパイのような甘い系のものから、ミートパイのようなしょっぱい系(savoury)まで幅広く使われる。

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豚のミンチがたくさん入ったパイ。肉屋で購入

 

 

一方、日本で定番のパイ生地はパフペイストリーという。
何層にも重なり、バターの風味をしっかり感じられる「パフペイストリー」は、バターの使用量が多い(小麦粉と同量のバターを使うという)。

ショートクラストペイストリーのバター使用量は、その半分ですむのだそう。

 

既製品のショートクラストペイストリー

 

イギリスのスーパーでは生クリームやカスタード、そして牛乳パックに入った卵白を販売する冷蔵コーナーが大きく設置されている。

その横には、既製品のショートクラストペイストリー生地が、サランラップのようにくるくるとロールされてready rolledとして販売されている。

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かつてこれを購入し、アップルパイなどを焼いてみたが、さくさくとした硬い食感は私も好感が持てた。

 

 

手作りのショートクラストペイストリー

 

今回のコーニッシュパスティは、生地から作ってみることに。

材料をみてみると、コーニッシュパスティに使う生地にはラードが必要だった。

また、スウェードを購入しなければならない。
あの、硬くて調理しにくい西洋カブ。

 

めんどくさがりの私は夫にいちゃもんをつける。

私「材料探すのも、作る過程もめんどくさい。」

夫「君がこれまで作ってた料理だって十分めんどくさそうだったよ。ラードなら、自分で調達すれば?」(私の腹の肉を指し示す)

 

…こうなったら、夫においしいコーニッシュパスティをたらふく食べていただき、私の腹の脂肪を凌駕していただこうではないか。

 

ラードは簡単に見つかった。TESCOでバターやチーズの横に売っていた。しかも安い。35ペンス。

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余ったらちんすこうでも作ろうか。

小麦粉の中にバターとラードをちぎって入れて混ぜる作業は、意外と楽しかった。

手がベタベタになるかと思いきや、そんなこともなく。

しかしバターやラードのかたまりが、いとも簡単に生地に溶け込んでいくのをみるとなんとも恐ろしい。

 

フィリングを作る

 

フィリングにはステーキ肉を切って使うというけれど、安い牛ひき肉で代用。

ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、スウェードと、根菜をたくさん使う。

大量の根菜をかついで買って帰るのめんどくさい…とうんざりしていたのだが、TESCOにはいいものが。

 

なんと、根菜セット!

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ニンジン、玉ねぎ、パースニップ(白にんじん)、スウェードがセットになって1ポンド。これとジャガイモの袋を買えば完璧。

日本の「カレー用野菜セット」みたいな感じなのだろうか。

パースニップは今回必要ないけれど、久しぶりに食べてみたいと思っていたからちょうどいい。
鮮度はあまりよくなかったけれど。

 

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すべて1センチ角に刻んで、塩コショウでいためる。

…お店のコーニッシュパスティはしっかりと味付けされていておいしかったな。

塩コショウだけで味付け…いいのかな?

イギリスのレシピに疑心暗鬼になるビビりの私。

今回は奮発して、ミックス調味料でイギリスの味を再現。

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コールマンの、コテージパイの味付けの素を購入。

材料をみると、トマトやオニオン、にんにくパウダーのほかにタイムや黒コショウ、ベイリーフが含まれているという。

そんなにいろんな味をつけていいものか…と不安になるが、イギリスのインスタント調味料ってそんなにパンチがないから、これでいいや。

 

この調味料とひき肉を和えて、根菜も炒めて、フィリング完成。

(本場のレシピではひき肉も野菜もいためずにそのまま包んでオーブンで焼いていたけれど、生焼けの肉や硬い根菜になったら悲惨なので、あらかじめ炒めた臆病者の私…)

 

フィリングを生地に包む

 

生地は30分冷蔵庫で寝かせてから成形。

扱いやすい生地ではあったけれど、お店のようにぎっしりとフィリングを詰め込むのは難しい…

生地のつなぎ目は美しく作るのが難しく…

お店の人って、あの美しいつなぎ目をどうやって作っているのだろう。

フィリングはみ出ちゃいそう…

 

40分焼く

 

卵を表面に塗って焼く。

生地が手作りなので、40分じっくり焼くのだという。

今回はマジパンを使って作ったクッキーと、コテージパイも一緒に入れて焼くことに。

 

 

出来上がり

 

無事に形になりました。

私の低いクオリティを世間にさらすのは気が引けるので、写真は載せません。

しかし、サクサクの生地とあつあつの具材に夫は大喜び。

あの大きなコーニッシュパスティを1.5個もたべてくれた。

「あつあつのおいしいうちに食べなきゃ」とのこと。

 

喜んでもらえてよかった。

 

翌朝、久しぶりに夫を体重計にのせたら悲惨な数値になっておりましたとさ。

これもイギリス生活のいい思い出となればいい。

 

世界ではまだまだたくさんの人たちが感染したり亡くなったり、新しい生活の変化に不安を抱いている。

複雑な状況に変わりはないけれど、

少しでも心の余裕を持てた今に感謝しつつ、1日1日を大切に過ごしたい。

 

 

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最後に、本場のコーニッシュパスティの断面写真を。