20代の若者が教えてくれた大切なこと
私はかつて教育機関に勤めていたので、自分よりひとまわり年若い知人・友人が多い。
知り合った当初は中高生の年齢だった彼らが、今は20代前半の社会人となっている。
その友人たちがオンラインイベントを企画し、私を招待してくれた。
イベントのタイトルは、彼らが卒業した「通信制高校」にまつわるものだった。
通信制高校の生徒たちは進路をどうやって決め、どんなことを考えながら「今」を生きているのか。
具体的なキャリアや進路とともに4人の思いを、4人それぞれの立場から語ってくれた。
彼ら個人の経歴などはさておき、非常に感激したことをここに記録する。
その前に‥「通信制高校」について
通信制高校のシステム
高校には、全日制・定時制・通信制の3つのスタイルがある。
通信制は授業ではなくスクーリング(面接指導)というものと、レポート課題の提出によって単位を取得し、卒業に向かう。
自分のペースで学びを進めやすいので、仕事や子育てをしながら通う人や、健康上の理由で毎日学校に通えない人たちも多く在籍する。
通信制高校に入学する動機
入学動機はさまざま。
中学で不登校で全日制に通うのはハードルが高かったから。
体調や経済的な理由。
全日制の高校に入ったが、途中で通信制に転学した、などなど。
・・・
一般的な「通信制高校」とは、ざっくり言ってこんな感じです。
※あくまで私の個人的な意見ですが。
4人の登壇者が語ったこと
自分が通った通信制高校について
通信制だが、生徒会や部活動もあった。
空いた時間にアルバイトや仕事をするだけでなく、ボランティアや海外旅行などもした。
通信制を卒業したメリットとデメリット
デメリットは、「基礎的な学習習慣や毎日通学する習慣を作りにくい」こと。
毎日学校に通う全日制の生徒たちは授業で知識をガンガン詰め込み、学習習慣がある。
それに対して通信制の生徒たちは、自主的にレポート課題に取り組まないといけない。
基礎的な学力や、学びの習慣をつけることに苦労するとともに、毎日通学するという生活スタイルにチェンジしていくことが大変だったという。
メリットについては、「自由に使える時間で「これまでにない経験」ができた」ということだった。
彼らはアルバイトをするだけでなく、被災地のボランティア、沖縄や海外へ学習旅行をしたり、進路決定のために職場体験をした。高校卒業後も、彼らはそのフットワークの軽さを利用して、大学で興味のある分野を広げたり、自分が疑問に思ったことをまず「やる」「考える」習慣が身についていることを実感した。
登壇者の話を聞いて、私が感激したこと
通信制高校卒業生の実践=「生き方」を考える大切な時間
「通信制高校卒業」という選択により、彼らは「自分で動かないとなにも進まない」という状況に立たされていたのだと気づいた。
自由な時間は手にしたものの、その時間をどう使い、どんな自分になりたいか、一から考えなくてはならない。
全日制のようにひたすら受験勉強をし、進学の目標を目指して頑張っていくのではなく。
みずから行動しないと始まらない。
10代は多感で、未来に漠然とした不安がある。
自分にできることがなんなのかもわからず、自信が持てず手探りのなか、彼らは必死にもがいて、行動し、失敗や経験によって感じたことをかみしめた。
はたから見たらぐずぐずと過ごしているように見えても、彼らはその中でいろんなことを考え、もがいていた。
二人の登壇者の言葉が印象的だった。
「高校生の頃はゴールばかり求めていた。就職先とか、就きたい職業とか。
でも、ゴールに到達したときに「技術が足りない」「技術を付けるための努力の仕方を学ばないとダメだ」と気づいた」。
日本の教育が提供すべき進路指導は、「合格の仕方」とか「進路の可能性」とか、そんな型にはまったものではない。
自分がどんな人間になりたいのか。そのためにはどんな努力をしたらいい?
具体的にどんな行動を積み重ねていけばいい?
そんな問題提起をし、一人で問題解決を繰り返して理想の自分に向かっていけるような基盤作りをすること。それが進路指導なのだと痛感した。
「就職するまでは、「生きる=働く」だと思っていた。でもそうではなく、「生きる=健康=働く」」
この意見からは、「働く」とか「進学」云々の前に、「自分の軸」を問い直すことの必要性を感じた。
私たちの多くは「高校を卒業したら進学→就職」サイクルを当然と思っているし、お金を稼ぐためにそう進まざるを得ない。
でも、その前に自分の価値観と働き方のすり合わせをしないと、齟齬が起きて体や心に不具合が起きる。心も体も元気に生きていく方法を体得しておかないと、仕事のロングランは難しい。
4人の登壇者のキャリアは、卒業後に進路や考え方を何度も軌道修正しながら、自分の心を安定させる方法を探して「必死にもがく」様子を物語っていた。
今、こうして「必死にもがく」ことができない人が増えている。
それが日本の現状であり、世界の実情ではないだろうか。
自分の居場所を、仕事を、可能性を「ここしかない」「これしかできない」と決めつけて、心を押さえつけて生きている人が非常に多いのではないだろうか。
そういう社会が暗黙の了解になっているのではないだろうか。
そして新型コロナの影響で、私たちの心はますます閉ざされ、可能性をせばめているのではないだろうか。
4人の登壇者は、そんなことを私に感じさせてくれた。
「通信制高校」という枠組みを超えた、普遍的な人間の進路について考えさせられる。
「通信制高校卒業」の経歴ではなく、その過程・その先
イベントの参加者からの質問は、ネガティブなものが多かった。
「通信制を卒業して苦労したこと・葛藤していることはありますか」など。
「どうしてマイナスな部分ばかり聞きたがるのかな?」とCさん。
「確かに、通信制卒業後は全日制高校出身者と同じ土俵に立つ。進学したら生活ががらっと変わるから、大変な部分はある。
でも、過去は変えられないでしょう?
今ある生活や考え方をコントロールすることでやっていけばいいわけで。
通信制高校出身のために、今「苦労している」とか「葛藤」とか、そういうのはないかな。」
一般的に通信制高校卒業というと、「進学にハンディがありそう」という捉え方があるせいだろうか。
私たち世間の多くはマイナス面への注目傾向があるけれど、当の通信制高校卒業生たちは、しっかりと前を向いて、今を、そしてこれからをよくすることに目を向けて生きている。
★★★
「通信制高校卒業生」という立場から話を進めた彼らだけれど、議論は普遍的なものへと展開したことに、私は非常に驚いた。
若くて繊細で、自分に自信がなく心もとなくみえた高校生の頃を経て、彼らは今も悩みぬきながら社会へ発信している。10代の子たちに寄り添おうとしている。
それが非常に感動的だった。
そして。
私のように、今の環境の中で自分の可能性を限定的に考えるようになった30代の心まで揺さぶっている。
世界は激しい変化とストレスに見舞われているけれど、私も若い子たちに負けないよう、視野を広げて物事を考えていかねば…と、身の引き締まる思いでいる。