イギリスでも、黙っていられません

海外駐在妻の、世界へ向けたひとりごと

イギリス お米をめぐる冒険

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「ご飯」に執着のなかった私が、人生でこんなに米に悩まされるとは思わなかった。

2018年に始まったイギリス渡航の悩みは、コメで始まりコメに続いている。

 

 

主人に阻まれるおいしい日本米

 

2018年秋。

ほかの駐在妻がするように、私もコメをスーツケースに詰めてイギリスに持っていくつもりだった。海外に送る船便にも大量に。

 

しかしここで立ちはだかったのは、新婚ほやほやの主人だった。

「日本食材を海外に持ち込むには、厳しい規定があるみたいだよ。コメはイギリスに持ち込んでも大丈夫なの?」

 

まさかそんなことを聞かれると思わず、慌てふためく私。

「え!?みんなやってるじゃん!観光旅行客だってレトルト粥とか柿ピーとかスーツケースに詰めてるし…」

「みんなやってる、じゃ論拠にならないの。今回は遊びに行くわけじゃないんだよ。コメをスーツケースに入れて、空港で荷物検査のためにスーツケースを開けられて中をチェックされたらどうするの?そのときにほかの荷物を紛失したりペナルティがあったら困るでしょう?」

 

そこまで言われた私は、イギリスの関税システムについて詳しく調べることにした。

悲しいことに、2011年3月以降日本の食材の海外持ち出し規定は厳しくなっていた。

また、中国食材や肉を原材料とする調味料の持ち込みにも細かい規則が設定されていた。

船便の会社に問い合わせてみると、「食品を入れた荷物については、抜かりなく開封チェックが行われます」という。

 

ここまで言われるとなんだか不安になってくる。

ただでさえ渡航前に繊細になっている夫の不安をあおってまで「それでもおいしい米を食べたいんじゃ!」と主張するほど、コメへの熱い思いはなかった。

それに、私がこれから住む町にはアジア食材店があることを確認する。

米が食べたければ、そこで購入できることがわかった。

 

こうして私は、船便で日本のコメをイギリスに持ち込むことを断念する。

 

それでもコメを持っていきたい

 

主人とのほとぼりが冷めてから、懲りない私はもう1度イギリスの関税システムを確認した。

食材を持ち込む厳しい規定はあるものの、コメを持ち込むことに関しての記載は存在しない。

ほかのサイトを見ても「現地で購入すればいいのでは?」という意見が多い。

しかし、私の友人は「最初は少し持っていった方がいいよ」という。

駐在ガイドブックを見ても「日本食が恋しくなったり、体調を崩したときのために数日分の米を入れておくといい」とある。

 

そこで私はこう判断した。

「自分で食べる分を持ち込むのは、輸入ではない。いくらイギリスが食品の関税に厳しいといっても、5合程度のコメはペナルティにはならないはず」

 

「コメの持ち込み」をよしとする論拠が見つからないまま、私はコメと和風だしをスーツケースに入れた。

多くのバックパッカーが、駐在妻が、観光旅行客が、コメを海外に持ち出し書籍やブログに記録している。これはきっと、法に反さないからだろう。

そして、主人もイギリスで久しぶりにご飯を食べたら、喜ぶだろう。

 

またもや主人に阻まれるコメ

 

渡航前夜。空港よりも厳しい主人の荷物チェックにより、私のコメと和風だしは没収されてしまった。

厳密に言えば、主人が没収したのではない。私が日和ったのだ。

 

渡航前夜、空港近くのホテルにて。主人と私は最後の荷物チェックをした。

「仕事」として海外渡航する主人は、とても緊張していた。

イギリスの入国審査で提示する書類、説明する言葉のリハーサルに始まり、スーツケースに危険物や禁止されるものが入っていないか、爆発するようなものがないかまで細かくチェックがされた。

今では笑い話だが、主人は本当に細かかった。

包装紙に薬の名前が書かれていない粉薬は麻薬に見えて危険ではないか、この化粧品のボトルは爆発するのではないか、と細かい指摘をし続ける主人。

なんて細かいやつだ、と呆れながらも、私はコメを持ち込むことが不安になってきた。

そして私は、コメと和風だしを持ち込むことをあきらめた。

捨てるわけにはいかず、渡航当日に空港の郵便局から実家に送り返した。

 

渡航後すぐに、アジアの味が恋しくなる

 

渡航前、日本で最後に食べたのは鯛のお茶漬けだった。

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出汁のしみたやわらかいご飯の味をあんなに愛しくかみしめたものの、私たちは渡航してすぐにアジアの味を欲した。

 

↓過去の記事参照

 

norevocationnoyo.hatenablog.com

 

 

ホステル暮らしを2週間続ける私たちは、ほとんど自炊をしないで過ごした。

なぜなら、キッチンが狭く鍋が汚かったから。そして、慣れないのに鍋でご飯を炊いて鍋を焦がしたら大変と判断したからだ。

 

イギリスの油っこい食事に飽きた私たちは、外食やスーパーの食材の中にアジアの味を求めた。

しかし残念なことに、イギリスの「Bento」文化では、おいしいお米どころかまともなコメに出会うことができない。

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見た目はおいしそうだけれど、べしゃべしゃで残念なごはん

 

Bento の米まで酢飯になっている。そして、その酢飯はべちゃべちゃで砂糖が多く使われ、私たちと同じジャポニカ米とは思えない。

やっとたどり着いた、まともな味のレストラン「wasabi」の寿司も、割高なので頻繁にありつくことができない。

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やっぱり日本の米には負ける

 

やっと自分で炊いた米

 

渡英2週間後、私たちはやっと新居を契約し、入居することができた。

暖かく衛生的な部屋、強い水圧のシャワー、広いベッド、靴を脱いで過ごせるカーペット敷きの床…

それらも嬉しかったけれど、なによりうれしかったのは「自炊できる」ということだった。

 

私は早速、近所のスーパーで購入したジャスミン米を炊いてみた。

それがこれ。

 

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左の器の中にあるのが、ジャスミン米。 

お気づきだろうか。ジャスミン米がいかに茶色いか。
そして、ジャポニカ米の丸みとはまったく異なる鋭さを持っているか。

 

これはこれで美味しい。香草を混ぜて臭みを消したのだが、チャーハンにしてもイケると思う。

しかし、水分が圧倒的に足りない。スプーンで持ち上げないとパラパラと空中分解するし、
口の水分を全部奪ってしまうほどのぱさぱさ加減。

 

スーパーには、いろんな種類の米が売っていた。スペインのパエリヤ用の米、イタリアのリゾット用の米、タイ米などなど…

どうして私は、ジャスミン米を買ったのだろう。激しい後悔がおそってくる。

 

 

美味しいご飯を、がっつり食べたい

 

その後、スーパーでいろんな米を試してみた結果、日本の米に近いのはイタリアのリゾット用の米であることが判明した。

スペインのパエリヤ用の米や、ライスプディング用の米もいける。でも、イタリアがなんだかしっくりきた。

しかし問題があった。コメの値段が高すぎる。

500グラム500円。日本で1キロ1000円の米といったら、高級品。

しかも、私はイタリアのコメをすき好んで食べているわけではない。

一番マシだと思っているものに、こんなに値段をかけて食べるのは嫌だ。

家計の負担も大きすぎる。

 

そこで私は日本食材店に出かけた。厳密には、韓国食材店だ。日本食材専門店は、この田舎町には存在しない。

韓国食材店におかれた日本の調味料やコメを求めて、私は徒歩1時間の距離をてくてく歩いた。

 

これが戦利品の一部。

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負けた。たくさんの日本食材を目のあたりにした私は、コメへの情熱を一気に失った。

 

安いコメを買ってかついで帰るよりも、めんつゆや味噌、インスタントラーメンを1つでも多く買って帰りたい。

 

イギリスでもコメは買える。しかし、大きな米袋をかついで1時間かけて帰るとは、想定外だった。

 

コメの救世主

 

コメに対する悩みを相談すると、主人は
「イタリア米が高いなら、タイ米とかでもいいじゃん」と言った。
しかしある日、日本米をおなかいっぱい食べたいと思ったのか、私を不憫に思ったのか、韓国食材店でコメを買い、自転車にのせて帰ってきた。

それはなんと、日本の米ではなく、韓国のコメだった。

袋には「アリラン」の文字。見た目はジャポニカ米。

韓国人の友人に「アリランという会社のコメは有名なの?」と尋ねると「アリランて朝鮮民謡のことだよ!?」と不思議そうにしていた。

韓国国内で「アリラン」という会社の流通は少ないようだけれど、とにかくこの韓国のおコメにお世話になることに。

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台所に鎮座する米袋


 

 

うん、日本の米に近い味がする。

そしてなにより、おなかいっぱい食べられる(戦時中か!)

 

 

コクゾウムシ事件

 

悲しいことに、この韓国のおコメである事件が発生する。

ある日、コメの中に黒い虫が見える。

その正体は…

コクゾウムシ!!

 

コメびつの中に住む虫だそうで、食べても害はないらしい。

しかし、大量にいる。

 

彼らが米につくのを防ぐ方法は、唐辛子。

 

ちょうどパッチワークの先生がくれた唐辛子を米びつの中に入れることにした。

これによってコクゾウムシは死に絶える。

米をよく研げば小さなコクゾウムシたちは自然と取り除くことができる。

ようやく問題解決。しかし、平和なコメ生活の道のりは遠い。

 

古い鍋で炊くと、底にくっつく

 

韓国米を毎日使えるようになり、鍋でご飯を炊くことに慣れた。2合のコメを研ぎ、400mlの水を入れ、30分浸しておく。古いお米をふっくら炊くために、ハチミツを1さじ。

そのあと鍋を強火にかけ、沸騰したら弱火にして8分。蓋は8分経つまで開けてはいけない。

 

どんな鍋でも美味しく炊ける。しかし次の問題は、ご飯が底にくっついてしまうことだった。

小さなおにぎりが1つ握れるくらいのご飯が、鍋の底にくっついてしまいそぎ落とすことができないのだ。

 

最初、私はこのくっついたご飯に水と和風だしを入れ、雑炊にした。

しかし、毎日フル活用する鍋なので、雑炊を作る暇もなく洗いものとして直行することもしばしば。

食べ物を大事にする主人は、鍋をのぞきこみ「このかわいそうなご飯たちをどうにかできないだろうか」とよく嘆いていた。わかるよ、その気持ち。

 

救世主の鍋

 

美味しいご飯を求めて、はや2か月のイギリス生活。ここでまた、救世主が訪れた。

船便に乗って、私の大切な調理器具たちが届いたのだ。

9月にイギリスに着き、12月に届くはずの船便を待ちわびていた。

荷物は思いのほか早く届き、なんと11月下旬に届いた。

肌寒くなってきた11月、うれしかったのは上着や冬物。そして、包丁。イギリスのナイフは小さくて切りにくく、野菜は石のように硬いので、使い慣れた包丁が本当にありがたかった。

そして、待ち望んでいた鍋がきた。友人が結婚祝いにくれた新品の鍋。

保温容器がセットになっているため、炊いたあと半日以上ご飯をほかほかに保ってくれる。そして、新しい鍋にはご飯がまったくくっつかなかった。

つまり、私たちはやっと、米1粒も無駄にせずに食べることができるようになった。

 

鍋で炊くのがめんどくさくなる

 

コメ問題は解決したかに見えた。しかし、慣れというのは恐ろしい。

快適になればなるほど、さらなる快適を求め始める。

私はイギリスでいろんな活動をするようになった。

語学学校に通ったり、国際的なイベントに参加したり、主人やその友達と出かけたり。

そんな中で、ご飯を鍋で炊くことがめんどくさくなってしまったのだ。

 

自炊がめんどくさくなった話の記事↓

 

norevocationnoyo.hatenablog.com

 

 

日本では炊飯器のスイッチ1つで炊きあがり、保温が保たれる。炊きあがりはほどよく、ムラがない。

鍋で炊いたお米はおいしいけれど、火加減で硬さが変わってしまう。

ほかのおかずを用意しながら、ご飯の沸騰を確認したり火の調整をする、そのちょっとした動作ですらめんどくさくなってきた。

 

炊飯器が欲しい

 

もともと、日本の炊飯器をイギリスに持っていくかどうかで主人と議論していた。

「わが家に1台、炊飯器があってもいい」と二人とも思っていたけれど、問題は電圧だった。

炊飯器のように電圧の大きい電化製品を海外に持ち込む場合、同時に変圧器も購入しないといけない。

電圧が高いほど変圧器の値段は高くなる。また、電圧器をフル稼働させるのは、機械やコンセントプラグへの負荷も大きい。

だから、私たちは炊飯器持ち込みを断念していたのだ。

 

イギリスでも炊飯器は買える。しかし、安いものは原始的で鍋と変わらない。1番安いタイプは、鍋と同様火加減を手動で調整するものだったので驚いた。50年以上も前にタイムスリップしたのかと思った。

高いものも、旧式のものが多くそのくせ5万円ほどする。

日本では当たり前の機能をわが家に2年間備えつけるために、ルンバと同等の金額を支払うべきなのだろうか。

鍋炊きで我慢した方がいいのではないだろうか。

 

わが家に炊飯器がやってきた

 

ここでもまた、救世主がやってくる。コメの救世主が到来するのは、これで何度目だろう。

 

私は語学学校のみんなと、ロンドンのボートレース観戦に来ていた。

テムズ川のほとりを歩きながら、50代の香港人カレンとアジア料理の話になった。

私はただ、ご飯を炊くのがめんどくさい、という話をしたかっただけだった。

「主食って米にしてる?パンにしてる?うちはご飯毎日炊いてるんだけど、炊飯器ないからめんどくさいんだよね」

主食staple food 、炊飯器 rice cooker めんどくさい timeconsuming …そんな新しく覚えた単語を日常会話で使ってみよう、と思い立って持ち掛けた雑談だった。それにも関わらず、カレンから嬉しい提案をもらうこととなった。

「うちの炊飯器、使ってみる?」カレンが突然言い出した。

 

「え!?だって今カレンが使っているんでしょう?」

 

「前、息子たちと住んでいた時に使っていた大きなタイプが1つ余っているの。よかったらあげるよ」

「香港から持ってきたの?イギリスで買ったの?」

「香港で買ったよ。でもパナソニック製なの。日本の会社でしょう?電気プラグはイギリスと同じタイプだから、安心して。」

 

数日後、彼女が車で炊飯器を運んできてくれた。

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パナソニック!!

 

ちょっとレトロで、でもピカピカで、彼女の丁寧できれい好きな側面が見えるセカンドハンドの代物だった。

日本のものとは違い、上にプラスチックのカゴがついていた。

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イギリスの硬いニンジンも、スチームの力で柔らかく。

 

ここに肉や魚を入れてご飯と一緒に炊くと、蒸し焼きになるという。

 

 

この炊飯器のおかげで、私の家事の負担がどれだけ楽になり電気代の節約になったことか。

 

炊飯器との生活

 

この炊飯器を使い始めて半年がたつ。

やはり、炊飯器は便利だ。日本フリークのお客様が来た時には手巻き寿司のために5合のご飯を炊く。

白米とともに、porridgeや congee仕様のボタンがついている。

ご飯が炊けると、お知らせ音も鳴らさずに一気に保温モードに入る。

プラスチックのカゴに豚肉の塊を入れて炊くと、豚の脂が米のボウルに落ちて、ご飯には香ばしいおこげができる。

 

これまで当たりまえのように炊飯器でそれなりのお米を炊いてきた私だけれど、イギリスでたくさんのご飯騒動が起こり、コメのおいしさ、コメの食べ方、おいしい炊き方について考える機会が増えた。

今では炊飯器の機能や特徴1つとっても、それが愛しく感じられる。

 

毎日食べるお米だからこそ、おいしく炊ける炊飯器で炊き、炊き立てのご飯として食べたい。これって、生活におけるささやかな幸せなのだけれど、きわめて重要なことじゃないだろうか。

 

美味しい新米を、いい炊飯器でいっぱい炊いて、昆布の佃煮とお母さんが漬けてくれた梅干しで食べるのが最高の幸せ。

おいしい煮物とおいしいご飯がある日本は天国です。

また帰ってきたら、日本のおいしい新米をいっぱい食べたい。