イギリスでも、黙っていられません

海外駐在妻の、世界へ向けたひとりごと

イギリスでの医療における不信感 日本との違いはなにか

そもそも私は、どうしてイギリスで治療を受けることに抵抗があるのだろうか。

「ゆりかごから墓場まで」をうたって医療制度をととのえたイギリスなのだから、渡英前は「きっと先進医療が受けられる」とたかをくくっていた。

でも、イギリスに住めば住むほど、イギリスの医療に不信感がつのる。

イギリスの医療の質が悪いわけではないのに、どうしてこんなに不信感があるのだろう。

今回は、このことを客観的に分析してみる。

 

日本はフリーアクセス、イギリスはGP登録

 

日本では、ちょっと具合が悪いと医者に行くことができる。ネットで検索すれば、評判のいい医者はすぐに検索できる。そして、それをもとに自分が行きたい病院に予約を取ることができる(紹介状が必要なケースが多いけれど)。

一方、イギリスはそうはいかない。

イギリスに6か月以上住む人は、年間400ポンドをNHS(国民保険サービス)に支払う。これによって、医療を無料で受けることができる。

しかし、日本のようにすぐに受診できない。

まずは地元のGP(総合診療医)に連絡をし、症状を説明する。これをもとに医者が、専門医に診せるか診せないかを決める。

どんなに具合が悪くても、医者の判断によっては、専門医に診てもらえないケースがあるのだ。

また、専門医に診てもらうことが決まったとしても、予約に時間がかかり、長いこと待たされる。

 

私自身、この「待たされる」を経験したのだけれど、これはメンタルに相当なダメージを与える。

「もしかしたら自分は、ものすごい深刻な病気かもしれない」と思うと、食事がのどを通らない。

「こうして過ごしている間にも、病気が悪化したらどうしよう」と思うと、不安で眠れない。

治るものも治らない。

医療へのフリーアクセスになじんでいる自分は、医者と話すことで「心の支え」を欲しがっていたんだなと改めて気づく。

 

NHSは簡単に抗生物質をくれない

 

イギリスのNHSでは、なかなか抗生物質をくれない。

プライベートホスピタルに行くとくれるけれど、NHSは処方を控えている。

これは、イギリスの制度が影響しているのだそうだ。

イギリス政府は、2040年までに抗生物質の使用量を制限しようとしている。よって、ここ5年のうちに、抗生物質の使用量を15パーセント減らそうとしている(とBBCが報道している)。

 

日本では簡単に処方される抗生物質。抗生物質とは、かびや細菌を殺してくれる物質のことだ。日本では、感染症にかかったとき、インフルエンザになったとき、それから皮膚疾患における塗り薬などとして処方されている。

しかし、その効き目は相当強いので、使用するときは気を付けないといけない。

症状がよくなったからといって途中で飲むのをやめる人がいるが、これは危険だ。

抗生物質で死なずに残った菌たちが、抗生物質に免疫を持ってさらに強い菌になってしまう。

そうすると、次回同じ薬を飲んでも、効果がなくなってしまう。

 

つまり、抗生物質を使いすぎると、抗生物質に耐性を持った、もっと強い菌たちが現れて、将来さらに深刻な感染症が起こった時に防ぐことができなくなる。

それを防ぐために、抗生物質の使用量を将来的に減らしていこう、というのがイギリスの考え方だ。

 

客観的に聞くと、すばらしい試みだと思う。

私たちの子どもたち、孫、そしてもっと先の人類が、新たな病気で苦しまないために、新たな病気を生み出さないためのアクションだということはわかる。

 

しかし、現在治療のために抗生物質が必要な私からしたら、「ちょっと待った!」と言いたい。

私がもし、今の段階で抗生物質をもらえなかったから。

それによって、今の持病が悪化したら。

悪化して、治療するには手遅れになってしまったら。

 

私はイギリスに住んでいたことを後悔するだろう。

そして、日本の医療をますます恋しく思うようになるだろう。

 

もちろんNHSも鬼ではない。

抗生物質の使用量を減らすとはいえ、重症の人には、処方をしている。

そして、プライベートホスピタルに行けば、NHSよりも簡単に抗生物質が処方される。(プライベートホスピタルの医療費は高額で、私的な保険に入り、受診する人はイギリスのわずか8パーセントだと言われているが)

 

しかし、イギリスの医療制度に詳しくない、英語の苦手な私からしてみれば、「日本と同等の投薬が受けられないのではないか」という不信感が強まってしまう。

 

まとめ

イギリスで医者にかかることに躊躇した理由はなんだろう。

自分の語学力の問題か。それとも、イギリスの医療の質の問題なのか。

最初はそんなことを疑った。しかし、いろんな人と話をし、調べてみると、浮かび上がってきたのは、日本とイギリスの医療システムの違いだった。

 

日本人はフリーアクセスが前提なので、医者に診てもらって薬をもらい、看護師に丁寧に扱ってもらうことが前提となっている。

しかしイギリスの医療制度、政府の方針では、すぐに医者にかかれないし薬も簡単には手に入らない。

 

セルフケア前提のイギリスと、フリーアクセス前提の日本。

 

慣れない医療制度に身をおくことは、ただでさえストレス。

ましてや、難病の疑いがあるのに「セルフケア」を推奨され、専門医にかかるまで待たされつづけるなんて、蛇の生殺し。

 

イギリスで医療を受けることを選択したら、私の不安は一層高まるだろう。

でも、日本よりも主体的に、自分の病気に向き合うチャンスになる気もする。

 

もし私が日本で治療を受けたら、医者に身を任せ、治療、投薬の安心感を得る。

でも、イギリスで治療を受けたら。

イギリスの医療システムへの猜疑心から、私は自分で情報を集め、食生活、生活リズム、自身のメンタル管理まで、主体的に行動するようになるだろう。

 

まずは、イギリスの医療に身をゆだねてみよう。

これが吉と出るか、凶と出るか。

 

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