イギリスの水から考える、日本人の不便、イギリス人の不便
イギリス特有の石灰質の水に悩まされている。
ケンブリッジの水は、とくにこの傾向が強いようだ。
石灰質は、電気ポットや加湿器の底に白くて硬いかたまりとして残る。
また、洗濯をすると白い洋服が黄ばむ。
ガラスや金属製品に水垢が残りやすく、水滴はすぐに拭き取らないといけない。
シャワーを浴びると、泡立ちが悪く髪の毛がきしむ。
きしんで枝毛だらけになった自分の髪を見て、日本人の美しい黒髪を懐かしく思った。
そして、アジア人の黒髪がヨーロッパから愛される理由がよくわかった。
イギリスでさらさらロングヘアを維持することは、きわめて大変。
それは個人のケアの問題ではなく、水の問題でもあったのだ。
調べてみると、イギリスの水は食器や肌にとってよくないということがわかった。
そのせいだろうか、イギリスの食器の洗い方は、日本と全然違う。
イギリスでは、たらいにお湯と洗剤をたっぷり入れ、泡の中で食器をじゃぶじゃぶ洗う。
そして、そのあとに水ですすいだりしない。
泡だらけの食器をたらいから取り出す。
ティータオルという、ふきんのような大きな布で、泡にまみれた食器を拭く。
以上。
水ですすぐと、陶器にダメージが大きいからだそうだ。
シャワーを浴びるときも同様。
石鹸の泡を体に塗り付け、そのあとお湯で流さずに、泡を拭き取る。
郷に入っては郷に従え、のモットーを大事にしている私。
でも、このシャワーの浴び方はさすがに真似できない。
イギリスの水はただでさえ石鹸の泡立ちが悪く、日本製の洗顔フォームが泡立たなかったり、うまくすすぎ落としができなかった。
でも、これを洗い流さずに泡を拭き取るだなんて、聞いただけで体がかゆくなってくる。
これらの問題を、かつて日本でお世話になった英語の先生(スコットランド出身)に相談した。
彼は日本で英語教師をしている。自分で会社を立ち上げ、日本にはもう10年以上住んでいる。
イギリスの水の扱いに悩んでいることを正直に話すと、先生から意外な反応がかえってきた。
「え?体のためにはイギリスの水の方がいいんだよ。カルシウムをいっぱい含んでいるんだし」
「日本の水の方が、かえって体によくないんじゃないかな」
え!?そうなの??
「イギリスの水」の検索ワードで調べてみると、こんな文章が出てきた。
「イギリスの水はマグネシウムやカルシウムを多く含む硬水なので、下痢を起こしやすい。」
「腎臓の機能に問題がある人がヨーロッパの硬水をたくさん摂取すると、結石のリスクが高くなる。」
え、イギリスの水、体に悪いじゃん。
でも、別の記事には、こう書かれていた。
「マグネシウムを多く含むイギリスの水は、消化器系に影響を与えて便通をよくする効果がある」
「血液をさらさらにする効果があると言われていて、心筋梗塞や脳梗塞といったリスクを減らすことが期待されている。」
…なるほど。飲みなれた人からしたら、「便秘や脳梗塞のリスクを減らす、健康にいい水」だけれど、私たちアジア人からしたら、「普段の水よりも下痢をひきおこしやすい危険な水」としてとらえられていたのだ。
ヨーロッパの人と、日本の人は体質も体のつくりも異なるから、感じ方に差があるのだ。
今までの海外旅行では、ご当地情報を集めて鵜呑みにしていた。
衛生環境が悪い地に行くときや、水質が明らかに異なる地域に旅行するときは
ミネラルウォーターやおかゆを持っていき、体調不良に備えることができた。
でも、長く住むにあたっては、それができない。
現地にあるもので生き延びなければならない。
でも、毎日口に入るものは気を付けなければならない。
「どんな成分が入っていて、日本とどう違うのか」を把握し、自分の特性も踏まえて、なにを食べ、なにをひかえるか選択しないといけない。
いくら国際化が進んだとはいえ、私たちはアジアで生まれ、アジアの食べ物に慣れた消化器官を持っている。
自分の消化器官にやさしい食べ物、飲み水を口に入れ、健康に生活していかないといけない。
私と主人は当時お金もなかったし、ミネラルウォーターを購入するという選択肢はなかった。
でも、健康のため、体質のためにミネラルウォーターを選択せざるを得ない人たちもいるわけで、
それは「贅沢」ではなく、生きるための「選択」なんだな、と感じた。
スコットランド出身の先生にとって、イギリスの水は
「健康にいいカルシウムたっぷりの水」
でも、私たちアジア人にとっては
「下痢や軟便になりやすい、注意すべき水」。
不思議―。